2010年5月11日に、ニューヨークのA法律事務所と、京都のM特許事務所との共催で米国特許セミナーが開催され、両事務所のK様、M先生からありがたくお誘いを頂き、事務所の弁理士全員で参加させて頂きました。
セミナーは、
(1)Written Description requirement and Enable requirement
特許明細書の記述要件と実施可能要件について
~より良い米国特許の取得を目指して
(2)False Patent Marking in Violation of 35 U.S.C. 292
米国特許法第292条違背による虚偽特許マーキング訴訟
~新たなパテント・トロールの現状と回避策
の2部から構成され、M特許事務所所長のM先生が司会をなさいました。講義はA事務所所属の米国弁護士の先生により行われました。
(1)のパートでは、Ariad vs. Lilly判決(112条に規定される、Written Description requirement 、 Enable requirementの解釈)、判決に対する反対意見、その他の関連する最近の判例をご説明頂きました。
クレームの広さと実施例の開示不足の問題(所謂「広すぎるクレーム」など)は、日本でもしばしば問題となります。クレーム範囲に含まれる先行技術があればよいのですが、ない場合、そのクレームの保護範囲をいかに画定すべきか(どうすればフェアな解釈になるか)は、利害関係を比較考量した上での慎重な判断が必要となります。
一方で、発明の保護範囲を広げることは、明細書を作成する者の力量によるところが大きいものです。
明細書作成者は、(妥当である範囲で)可能な限り広いクレームを記載し、それを充分にカバー、サポートすることのできる十分な実施例を明細書に記載しなければ(クレームの広さと実施例の記載とのバランスをとらなければ)なりません。
基本的には、
(a) 明細書は、バリエーション豊富に、かつ細かく詳細に記載する(特に、技術思想を実現するための「構成」は、書きすぎるほどに詳細に記載すべき。これは、引例回避のための補正などを考えてもきわめて有効)、
(b) クレーム(請求項)は、広いものから狭いものまでを段階的に網羅する、
ということが一般論(抽象論)となります(そして、その一般論をいうことは誰でもできることなのですが、それを、「具体論」として実務家が実行することは、とても難しく、労力の必要となる作業です)。
他、セミナーでは、明細書中で「目的」や「解決しようとする課題」の記載を詳しく書くことは、クレームの保護範囲を狭めたり、クレームが記載不備であると判断されてしまうことなどにつながることがあるので、避けるべき(そもそも米国では明細書中に、「目的」や「解決しようとする課題」を記載することは法律上、要求されていない)、とのアドバイスがありました。
私も個人的な見解として、そのようなスタイルが(日米いずれの実務においても)結果的に望ましいものになると考えていますが、中間処理の実務などを重視される実務家の方は、反対意見(発明の趣旨を明確にするため、審査官が発明を理解しやすくするために、「目的」や「解決しようとする課題」は詳しく書くべき、との意見)をお持ちになるのではないかと思います(結局は、「どの程度詳しく書くか」の程度問題かもしれません)。
「よい明細書、よいクレーム」は、実務の変化とともに時代に応じて変わってゆき、固定観念に縛られるべきではないため、実務家同士で、「よい明細書、よいクレーム」について議論することは、大変に勉強になります。
(2)のパートでは、近年世間をにぎわしている虚偽特許マーキング訴訟のメルクマールとしての判決(Forest Group, Inc. v. Bon Tool Co.他)と、訴訟提起が頻発している理由、企業がなすべき対策について解説頂きました。
これまで企業であまり重視されてこなかったであろう問題だけに、特許マーキングの件に関しては、(もうされているでしょうが、)今一度の見直しが必要かと思います(日本国内でも、時折、法律上問題となる特許表示に出会うことがあります)。
当事務所も、A法律事務所、M特許事務所のように立派なセミナーが開催できる事務所になりたいと思いました。K様、M先生、お招きありがとうございました。励みになります。
椿特許事務所
弁理士TY