Site Loader

 先日、特許庁主催の「平成21年度知的財産権制度説明会(実務者向け)」に参加さ
せて頂きました。
http://www.jpo.go.jp/torikumi/ibento/ibento2/jitumusya.htm
この説明会で知見を得た、先使用権制度の効果的な利用方法について以下にまとめておきます。特許庁職員の皆様、貴重なご講演有り難うございました。
1.ノウハウ秘匿(=特許出願をしないこと)と特許出願との選別
 特許制度は、有用な発明を公開した発明者または特許出願人に対し、その発明を公開したことの代償として、一定期間、その発明を独占的に使用しうる権利(特許権)を国が付与するものである。特許出願した技術は、原則として出願日から1年6ヶ月経過後に公開される。
 従って、企業が開発した技術については、ノウハウ秘匿とする(=特許出願しない)ことと、公開して特許権を取得する(=特許出願する)こととの選別を行うことが、戦略的な出願管理の観点から重要である。特許出願するか否かの選別方法の一つとして、たとえば以下の場合には、開発した技術を特許出願せずにノウハウ秘匿とする考え方がある。
 ・侵害発見が困難な技術
 ・製品から技術内容を認識することができない技術
 ・公開しなければ競合他社が到達困難であり、市場優位性を確保できる技術
 ・製造方法や製造装置に関する技術
 ・化学中間材料
2.ノウハウ秘匿とする技術の営業秘密としての管理
 開発した技術についてノウハウ秘匿とすることを選択した場合には、その技術を不正競争防止法上の営業秘密として管理する必要がある。不正競争防止法で規定される営業秘密として保護されるための要件は以下の3つである。但し、契約や他の法令により、これ以外の情報が保護を受ける可能性はある。
 ・秘密として管理されていること(秘密管理性)
 ・事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)
 ・公然と知られていないこと(非公知性)
3.ノウハウ秘匿とする技術の先使用権の確保
 開発した技術についてノウハウ秘匿とすることを選択した場合には、他社が将来的にその技術に関する特許権を取得した場合に備えて、自社のその技術の実施権(先使用権)を確保しなければならない。そのためには、特許法第79条に規定される先使用権の要件を自社が満たしていることを示す証拠を確保しなければならない。
 特許法第79条 特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する。
 ・「特許出願の際現に」:他社が特許出願した瞬間に「事業」又は「事業の準備」の作業をしていたことを証明することまで求められているものではない。裁判では、特許出願の前後を通じた研究開発の着手から事業の開始、継続まで一連の経緯についての資料が検討され、「事業」又は「事業の準備」を行っていたか否かが判断される。
 ・「その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内」:特許出願の際現に実施している実施形式に限定されるという考え方(実施形式限定説)と、現に実施している実施形式に表現された技術と発明思想上同一範疇に属する技術を包含するという考え方(発明思想説)とがある。
 ・他者の特許出願後に実施行為の変更・追加はできない。たとえば他者の特許出願前に販売のみを行っていた者が、他者の特許出願後に新たに製造を開始することはできない。
 ・日本国内において「事業」又は「事業の準備」を行う必要がある。一方、発明地は海外でも日本国内でもよい。
(「先使用権立証のための証拠」について、次回につづく)
椿特許事務所
弁理士IT

Post Author: tsubakipat