平成20年新司法試験[知的財産法]
[知的財産法]
〔第1問〕(配点:50)
以下の事実関係を前提として,後記の設問に答えよ。
【事実関係】
甲は,傘生地に特殊の樹脂を塗布する防水加工を施すことにより,防水効果を発揮することを特徴とする傘の発明(以下「甲発明」という。)の特許権を有している。
乙は,甲発明の特許権について,その存続期間全部に対応する実施料全額を甲に一括して支払って,甲から,専用実施権の設定を受け,甲発明の実施品であるA傘の製造販売をしている。
一方で,丙は,甲発明の特許出願がされた後,独自に開発した紫外線を吸収する傘生地に,上記特殊の樹脂を特定の温度条件で塗布する防水加工を施すことにより,紫外線カット(UVカット)効果及び防水効果を共に発揮する傘の発明(以下「丙発明」という。)の特許出願をし,特許権の設定登録を受けた。
丁は,丙から,丙発明の特許権について通常実施権の許諾を受け,丙発明の実施品であるB傘の製造販売を開始した。
〔設問1〕
甲と乙は,それぞれ丁に対し,B傘の製造販売の差止め及び損害賠償を請求することができるか。
〔設問2〕
1. 丁は,丙発明の特許について,特許無効審判を請求することができるか。
2.
(1)丙発明の特許を無効とする審決が確定した場合,丁は,丙に対し,既払の実施料の返還を請求することができるか。
(2) また,前記(1)の審決の確定前の期間に対応する実施料に未払があった場合,丙は,丁に対し,その未払分の実施料の支払を請求することができるか。
(以上、法務省HPより引用)
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〔設問2〕
1.について
【参考法文】
(特許無効審判)
第123条 2 特許無効審判は、何人も請求することができる。ただし、特許が前項第2号に該当すること(その特許が第38条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第6号に該当することを理由とするものは、利害関係人に限り請求することができる。
【参考判例(請求の利益(「利害関係」)に関して)】
事件番号 昭和59(行ケ)7 東京高等裁判所
裁判年月日 昭和60年07月30日
『原告は、通常実施権者たる被告が本件無効審判の請求をなすことは信義則に反し、許されない旨主張する。
しかしながら、専用実施権者から通常実施権の設定を受けた者が、当然に、実施許諾を受けた登録意匠の登録の無効の審判を請求することができないということになると、無効事由を含むと判断される登録意匠の実施をした場合においても実施料の支払いを継続しなければならないという不利益を受けることになり、これをも甘受するものとすべき合理的理由はないから、通常実施権者であつても、右無効審判を請求することは、特段の事情のない限り、信義則に反するものではないものと解するのが相当であり、右特段の事情の存在につき主張、立証のない本件では、原告の右主張は理由がない。』
(東京高判昭38.1.31(合成樹脂化粧板事件)も同旨。)
2.について
【民法】
・契約自由の原則 (特に、契約内容の自由)
・契約の錯誤(民法95条)
・第703条(不当利得の返還義務)
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
【書籍・論文】
・有斐閣「特許判例百選[第三版]」(別冊ジュリスト)「100 権利無効の場合の既払実施料返還の要否 東京地裁昭和57年11月29日判決」
・有斐閣「特許法概説」(IX 審判・異議申立て・再審・判定 (B)特許無効の審判 (vi)特許無効の効果「実施料・損害賠償金の返還」)]
ほか
椿特許事務所