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弁理士の仕事をしていると、面白い発明や面白い商標に出会うことができるから楽しい。それらを権利にして保護する作業は、自由度が高い作業であり、代理人(弁理士)の経験や知識や個性が発揮される作業である。
「弁理士」と同等の職業は、世界各国において存在する。他の国の弁理士がどのような戦略を立ててどのような仕事を行なっているかを研究することは、世界規模で情報が飛び交う時代に不可欠なことかもしれない。
「ノルウェー国際発明大賞受賞」として販売されている「ロボモップ」(ロボット掃除機)には、特許番号がいたるところに記載されていたので、ノルウェーの弁理士がどのような仕事をするのか見てみた。このロボットの発明者は、ノルウェー国ネストゥンのトルブヨルン・アーセン氏。ノルウェー語から英語への翻訳なので、若干読みにくいかもしれない。
【実際の発明品】

【PCTの公開クレーム】
20080530102340748223.gif
Mobile robot (10) for random movement across a surface (16) characterised in that it comprises
a drive unit (12) and a top-hat (14), in which
the drive unit (12) is in contact with the surface (16), and that
the drive unit (12) is arranged inside and free in relation to the top-hat (14), and in which
the top-hat (14), which at least partially surrounds the drive unit (12), in the section which is turned towards the surface (16) has an extension which is greater than the drive unit (12)
such that a space (15) is established between the top-hat (14) and the drive unit (12)
so that the drive unit (12) freely pushes against and randomly moves the top-hat (14) across the surface (16).
(参考)日本に国内移行された特許のクレームは、
【請求項1】
 表面(16)を横切るランダムな移動のための移動可能ロボット(10)であって、
 駆動装置(12)とトップハット(14)とを備え、
 前記駆動装置(12)は前記表面(16)と接触しており、
 前記駆動装置(12)は、前記トップハット(14)の内側に、当該トップハット(14)に対して自由に配置されており、
 前記トップハット(14)は、少なくとも部分的に前記駆動装置(12)を取り囲んでおり、前記表面(16)に向けて曲げられた部分において前記駆動装置(12)よりも大きい延長部を有しており、
 前記トップハット(14)と前記駆動装置(12)との間に空間(15)が確立されており、
 前記駆動装置(12)は、前記トップハット(14)を前記表面(16)に対して自由に押しつけ、前記トップハット(14)を前記表面(16)を横切ってランダムに移動させる
ことを特徴とする移動可能ロボット。
【考察】
「characterised in that」で記載されているヨーロッパ系のクレームである。もちろん先行技術との関係もあるが、「掃除」に限っていない点など、広い権利の取得を狙ったことが伺える。知財授業でのクレームドラフティングの練習の教材として、よいかもしれない(その際には念のため、権利者の許可を取ってください)。
【蛇足として】
実は筆者はこの商品をすでに購入しているが、モップがけをすべき床が自動で驚くほどきれいになる(タイマーをかけてスイッチオンしたまま外出すると、帰ってくるころには掃除が完了している)。価格の割に、十分実用的な商品であると思う(個人的には、任天堂のwii(登録商標)などと同じで、ある意味、技術開発のトレンドとは逆転の発想を備えた大発明だと思う)。
また、このロボット、なかなか予想できない動きをして面白い。ランダムに移動しているのだが、部屋の隅々まで掃除してくれているような気がする。ベットの下でごそごそ動いていたと思ったら、ほこりだらけになって出て来たりする(そんなときは思わず褒めてやりたくなる)。これを発明したとき、きっと発明者はノルウェーの地で夜も眠れないぐらいうれしかったのでは?と思う。人類の文明はそのようにして日々進歩してゆく。
椿特許事務所
[弁理士TY]

Post Author: tsubakipat