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拒絶理由と一部異なる理由での審決の違法性
(平成19年(行ケ)第10071号審決取消請求事件)
査定・審決がなされるときに、拒絶理由通知で通知された理由と一部異なる理由付けがなされることがある。
どの程度異なるのかの程度問題にもよるが(全く異なれば、特許法第50条違背である)、出願人にとっては「寝耳に水」の審決がなされることも少なからずあり、「十分な弁論・防御がなされていないのに結審に至った」という印象を出願人が受けるケースがある。
以下の判例は、周知技術として新たな文献が審決の段階で引用された手続きの違法性が争われたケースである。
判決文では特許庁の手続きは適法であると判断されているが、「先行技術」であるか「周知・慣用技術」であるかは微妙(グレーゾーン)であることが多い。審理の早期化の要請があることも理解できるが、グレーゾーン領域においては、可能な限りユーザー(出願人)側の立場も配慮されることが望ましい。
(以下、平成19年(行ケ)第10071号審決取消請求事件より抜粋)
【原告側主張】
(2) 取消事由2(手続違背)
審決は,前記(1)のとおり,相違点2の検討において,「一般に,一以上のフルオロカーボンポリマーを一以上の非フルオロカーボンポリマーと組み合わせて含んでなるポリマーブレンドで基材を被覆すること」が周知技術であることを認定する周知例として,甲3及び甲4を挙げている。
しかし,審決が周知例として挙げた甲4は,審決で初めて引用されたものであり,「周知技術」や「設計的事項」という新たな概念を持ち出し,本件拒絶査定と異なる理由で審決をしようとしたにもかかわらず,特許出願人である原告に対し新たな拒絶理由として通知せず,反論・補正の機会を与えなかったものであるから,本件審判手続には,特許法159条2項において準用する同法50条の規定に違反する手続違背があり,審決は違法である。
【特許庁側主張】
(2) 取消事由2に対し
ア:本件拒絶査定(甲9)は,「備考」として,引用文献3(甲3)に記載された発明は,引用文献1(引用例1)に記載された発明と,フッ素樹脂による被覆物全般を技術分野としている点で互いに関連する技術分野に属するものであり,表面への内容物の付着を抑止するという点で共通の機能をもつものであり,この発明が,広く知られたフルオロカーボンポリマー被覆の剥離しやすさという課題を解決するものである旨指摘し,上記課題を解決するために,フルオロカーボンポリマーに非フルオロカーボンポリマーを組み合わせて被覆材とするという引用文献3(甲3)の記載事項を指摘した。
審決は,「一般に,一以上のフルオロカーボンポリマーを一以上の非フルオロカーボンポリマーと組み合わせて含んでなるポリマーブレンドで基材を被覆することは,例えば,特開平2-89633号公報,特開平2-26661号公報等にも示されるように従来周知である」と,引用文献3(特開平2-89633号公報。甲3)に,参考までに周知例として他の文献(特開平2-26661号公報。甲4)を付加して,本件拒絶査定で既に指摘した事項が周知技術でもあることを示したにすぎず,本件拒絶査定と異なった引用文献を根拠に,異なった理由で判断したものではない。
イ:また,そもそも周知事項とは,個々的に文献を示すまでもなく,当業者が当然に認識しているべき技術のことであるから,原告に対し,審決前に,甲3以外に周知例を通知しなかったからといって,そのことが手続違背になるものではない。
ウ:したがって,本件審判手続には,本件拒絶査定の拒絶理由と異なる理由で審決をしようとしたにもかかわらず,拒絶理由を通知しなかった違法がある旨の原告の主張は失当である。
【裁判所判断】
2 取消事由2(手続違背)について
(1) 手続の経緯等
ア:本件拒絶査定に係る平成14年10月28日付け拒絶理由通知(甲8)の「理由」中には,請求項1に係る「備考」として「・・・引用文献1には,フルオロカーボンポリマーで吸入器内面を被覆することが記載されている。引用文献1に記載の発明は,フルオロカーボンポリマーに非フルオロカーボンポリマーを組み合わせて被覆材とすることが明記されていない点で,請求項1に係る発明と相違しているが,フルオロカーボンポリマーに非フルオロカーボンポリマーを組み合わせて被覆材とすることは引用文献3にも記載の事項にすぎない。」との記載がある。
イ:また,本件拒絶査定(甲9)には,「この出願については,平成14年10月28日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって,拒絶をすべきものである。」,「備考」として「・請求項1-23について・・・引用文献3に記載された発明は,・・・厨房器具は例示にすぎず,フッ素樹脂による被覆物全般を技術分野とするものであるから,引用文献1に記載された発明と引用文献3に記載された発明とは,互いに関連する技術分野に属するものであると認められる。
また・・・引用文献1に記載された発明のプラスチック被膜と引用文献3に記載された発明のフッ素樹脂被覆物とは,表面への内容物の付着を抑止するという点で共通の機能をもつものである。さらに,フルオロカーボンポリマーによる被覆が剥離しやすいことは広く知られており,フルオロカーボンポリマーの壁面への付着性を向上させることは一般的な課題であると認められる。
・・・したがって・・・引用文献1に記載された発明のフルオロカーボンポリマーによる被膜に換えて,引用文献3に記載された発明を採用することは,当業者が容易に想到しうることにすぎない。」との記載がある。
ウ:そして,審決は,甲3及び甲4を例示して,「フルオロカーボンポリマーに非フルオロカーボンポリマーを組み合わせて被覆材とする」という技術事項が周知技術であると認定した上で,引用発明1に,上記周知技術を適用することは容易想到であると判断した(審決書6頁5行~10行)。
(2) 手続違背の有無について
審査段階において,拒絶の理由として特定の技術事項が証拠(文献)とともに示され,出願人に対して意見を述べる機会が与えられている場合において,審決において,当該技術が周知であることを裏付ける証拠(文献)を追加して引用することは,新たな技術事項を示して拒絶理由を変更するものではないから,審判手続において,新たに追加された証拠(文献)について,審判請求人に意見を述べる機会を与える必要はなく,その機会を付与しなかったからといって,手続違背を構成する余地はないというべきである。
前記(1)イによれば,本件拒絶査定は,引用文献1(引用例1)に,引用文献3(甲3)に記載された技術(「フルオロカーボンポリマーに非フルオロカーボンポリマーを組み合わせて被覆材とする」こと)を適用することは容易想到であることを拒絶の理由としたものと認められる。そして,前記(1)ウによれば,審決は,引用発明1に組み合わせるべき技術事項(「フルオロカーボンポリマーに非フルオロカーボンポリマーを組み合わせて被覆材とする」こと)については,本件拒絶査定で示したものを変更することなく,この技術事項が周知であることを裏付ける証拠として,本件拒絶査定で示した甲3とともに,甲4を付加して例示したものと認められる。
そうすると,審決が,原告に意見を述べる機会を与えることなく,周知例として甲4を例示したことをもって,本件審判手続において特許法159条2項において準用する同法50条の規定に反する手続があったものと解することはできない。したがって,原告主張の取消事由2も理由がない。
[TY]

Post Author: tsubakipat