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平成20年(行ケ)第10305号審決取消請求事件(前回の続き)
2.判決趣旨
審決が,「引用発明のシール帯域の端部の溝を設けた部分に形成される合成樹脂溜まり部は夾雑物を含むため密封性にはそれほど寄与しないものと認められ,合成樹脂の流れ込む溝を十分深く設けることで,溝を設けた部分に形成される合成樹脂溜まり部を非溶着の熱シールされない部分とすることは周知の事項(甲2,甲3)である」とした上で,「引用発明において密封性にはそれほど寄与しない合成樹脂溜まり部を,シール帯域の外側に隣接し,シール帯域としては機能しない部分として配置することも当業者が容易になし得た」と判断した点には,誤りがあるものと解する。
<引用発明について>
「合成樹脂溜まりを形成し得る溝が,シール帯域の端部に設けられている」とする引用発明の相違点に係る構成の技術的意義は,溶融した合成樹脂がシール部分Sの範囲を超えて過度に流れ出してしまうことにより,シール部分Sにおいて熱融着に寄与する合成樹脂の量が少なくなって適切な接合強度が得られず,また,シール部分Sから流れ出た合成樹脂が固化して包装容器の内側でヒビ割れを発生させることがあるという課題を解決するために,シール部分Sの範囲を超えて流れ出ようとする合成樹脂をシール部内の端部に滞留させることで,合成樹脂の流れを阻止して,シール部分Sの範囲から流れ出ない,あるいは,過度に流れ出すことがないようにした点にある,ということができる。
<本願発明について>
ヒートシール装置において,シール時にシール帯域内の液体を溶融樹脂とともにシール帯域外へ流出させる方法では,シール帯域の液体や汚れを完全に排除し,優れたシール性が得られるものの,容器内側に流出した溶融樹脂が均一にはみ出さず,これによって,容器内側の縁部に波打った溶融樹脂ビード7が形成されて,容器に圧力がかかった場合にビード7から亀裂が発生することがあるという課題を解決するために,シール帯域の容器内面側外側に隣接して合成樹脂溜まりを形成し得る溝を設けて,溶融樹脂を夾雑物と共にシール帯域から容器内面側に向かって押し流すことによって,シール帯域には夾雑物のない優れたシール性を有する薄い合成樹脂層を形成する方法とし,シール帯域から流出した樹脂を溝に流入させることで,容器内側に流出した溶融樹脂が均一な幅の合成樹脂溜まりを形成し,これによって,容器内側の縁部に波打った溶融樹脂ビード7が形成されないようにしたものである。
「合成樹脂溜まりを形成し得る溝が,シール帯域の容器内面側外側に隣接して設けられている」とする本願発明の相違点に係る構成は,優れたシール性を有する薄い合成樹脂層を形成するために,溶融された合成樹脂を夾雑物と共にシール帯域から容器の内側に押し流した時に,流出した合成樹脂が均一にはみ出さずに容器内側の縁部に波打った溶融樹脂ビードを形成することがあるという課題を解決するために,シール帯域から流出した合成樹脂を溝に流入させることで,合成樹脂の容器内側へのはみ出しを規制し,これによって,容器内側の縁部に波打った溶融樹脂ビードが形成されないようにした点にある。
<容易想到性の検討>
本願発明と引用発明との相違は,合成樹脂溜まりを形成する「溝」の設置場所のみであって,その構成における相違点は,一見すると,極めて僅かであるとの印象を与える。
しかし,上記のとおり,「溝」の設置場所の相違点によって,本願発明においては,シール帯域から流出した合成樹脂で容器内側に波打った溶融樹脂ビードが形成されないようにする解決手段を提供するのに対して,引用発明においては,シール帯域からの合成樹脂の流れ出しを規制してシール帯域の樹脂量を確保する解決手段を提供するものであるという点で,解決課題及び解決手段において,大きな相違があるというべきである。
引用発明は,シール帯域内に合成樹脂溜まり部を設けて,熱融着に寄与するポリエチレン樹脂の量を確保することにより,「接合強度を維持」するようにしたものであるから,単に,「溝を設けた部分に形成される合成樹脂溜まり部を非溶着の熱シールされない部分とする」ことを開示する周知例(甲2,3)を指摘することによって,その周知の技術を適用して,引用発明とは異なる解決課題と解決手段を示した本願発明の構成に至ることが容易であるということはできない。引用発明は,接合強度維持を目的とした技術であるのに対し,周知技術は,接合強度維持に寄与することとは関連しない技術であるから,本願発明と互いに課題の異なる引用発明に周知技術を適用することによって「本願発明の構成に達することが容易であった」という立証命題を論理的に証明できたと判断することはできない。
以上
椿特許事務所
弁理士TM

Post Author: tsubakipat