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判決言渡平成20年12月10日
平成19年(行ケ)第10350号審決取消請求事件
平成20年(行ケ)第10031号審決取消当事者参加事件
ア 本件補正前(第2次補正時のもの)
本件補正前の特許請求の範囲は,平成16年1月7日付けの第2次補正時のもので,請求項の数は62であるが,その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。下線は判決で付記)は,次のとおりである。
 [注:(A)~(E)などのアルファベットは、弊所での引用時に付与したもの]
【請求項1】
(A)ルアロックコネクタの雄型ルア先端を受け入れるルア受け具であって,
(B)内壁を有すると共に,基端から末端側に向けてボアが形成され,該基端が前記ルアロックコネクタ内に挿入可能な寸法であるハウジングと,
(C)前記基端近傍で且つ前記ボアの内部に少なくとも一部が挿置されるように該ハウジングに取り付けられると共に,上側部分と,該上側部分から下方に伸長する伸長部分と,前記上側部分の上面近傍から延伸して該上側部分を貫通し且つ前記伸長部分の少なくとも一部に延入するスリットとを有する隔膜とを備え,
(D)前記ハウジングは前記隔膜の上面近傍に密封力を加えて該上面近傍の前記スリットを密封し,前記伸長部分は前記スリットと交差する方向の長さであるその幅が前記上側部分の幅より狭く,前記隔膜及び前記スリットは,前記雄型ルア先端が前記隔膜の上面及び前記スリットの少なくとも一部を介して該隔膜の内部に挿入できる寸法に形成され,該雄型ルア先端が前記隔膜内に挿入されると,該隔膜の少なくとも一部が該隔膜の長手軸から側方に変位して変位した隔膜部分が形成され,
(E)更に,前記隔膜の側方に少なくとも一つのキャビティが画成され,該キャビティは,前記雄型ルア先端が前記隔膜の内部に挿入された時に変位した前記変位した隔膜部分を受け入れることを特徴とするルア受け具。
イ 本件補正後(第3次補正時)
平成16年12月22日付けでなされた本件補正後の特許請求の範囲は,請求項の数は62であるが,その請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。下線は判決で付記)は,次のとおりである。
 [注:(A’)~(E’)などのアルファベットは、弊所での引用時に付与したもの]
【請求項1】
(A’)雄型ルアカニューレと,該雄型ルアカニューレを取り囲むように形成された雌型ねじ端部とを有するルアロックコネクタに結合するルア受け具であって,
(B1’)ハウジングと,該ハウジングに取り付けられる隔膜とを備え,
(B2’)前記ハウジングは内壁を有すると共に,その基端から末端側に向けてボアが形成され,該ハウジング基端の寸法は前記ルアロックコネクタ内に挿入可能な大きさに設定され,
(C’)前記隔膜は,少なくとも部分的に前記ハウジング基端近傍の前記ボア内に挿置されると共に,上側部分と,該上側部分から下方に延在する伸長部分と,前記上側部分の上面近傍から該上側部分を貫通し且つ該伸長部分の少なくとも一部にまで延伸するスリットとを有し,
(D1’)前記ハウジングは前記隔膜の上面近傍に密封力を加えて前記スリットを前記上面の部分で密封し,
(D2’)前記隔膜の伸長部分は前記スリットと交差する方向の長さであるその幅が前記上側部分の幅より狭く,
(D3’)前記隔膜と前記スリットの寸法及び形状は,前記ハウジングの基端を前記ルアロックコネクタの前記雌型ねじ端部の内部に係入すると前記雄型ルアカニューレの少なくとも一部が前記上側部分の上面及び前記スリットの少なくとも一部を介して前記隔膜の内部に入り込むように,夫々設定され,
(D4’)前記雄型ルアカニューレを前記隔膜に挿入すると,該隔膜の少なくとも一部がその長手軸から側方に変位し,
(E’)前記隔膜の伸長部分の側方に少なくとも一つのキャビティが画成され,前記雄型ルアカニューレを前記隔膜の内部に挿入し且つ前記雌型ねじ端部が前記ハウジングに嵌合した時に,前記変位した隔膜の一部は,前記雌型ねじ端部の内部で前記少なくとも一つのキャビティ内に受け入れられることを特徴とするルア受け具。
(4) 審決の内容
ア 審決の詳細は,別添審決写しのとおりである。
 その理由の要点は,①本件補正は特許請求の範囲を一部拡張し又は不明確にするものであるから却下されるべきである,②本件補正前の発明である本願発明は前記引用発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから特許法29条2項により特許を受けることができない,というものである。
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【特許庁側の主張】
・・・また原告及び参加人は,特許法旧17条の2第4項2号「特許請求の範囲の減縮」にいう「減縮」とは,補正後の特許請求の範囲が全体として補正前の特許請求の範囲に対してより狭い範囲であれば足りるものと解すべきであると主張する。しかし,同号は,「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」と規定されており,特に,発明を特定するために必要な事項を「限定する」とは,補正前の請求項に記載された発明を特定するための事項の一つ以上を,それぞれ,概念的により下位の発明を特定するための事項とすることであるから,補正後の一つ以上の発明を特定するための事項が補正前の発明を特定するための事項に対して,概念的に下位になっていることを要するものである。
したがって,原告及び参加人の上記主張は失当である。
【裁判所判断】
・・・
カ なお被告は,特許法旧17条の2第4項2号「特許請求の範囲の減縮」にいう「減縮」とは,発明を特定するために必要な事項を「限定する」ことであり,これに該当するといえるためには,補正後の一つ以上の発明を特定するための事項が補正前の発明を特定するための事項に対して,概念的に下位になっていることを要するものであると主張するところ,同主張は,補正が「特許請求の範囲の減縮」(特許法旧17条の2第4項2号)に該当するためには,これに該当する個々の補正事項のすべてにおいて下位概念に変更されることを要するとの趣旨を含むものと解される。
しかし,特許請求の範囲の減縮は当該請求項の解釈において減縮の有無を判断すべきものであって,当該請求項の範囲内における各補正事項のみを個別にみて決すべきものではないのであるから,被告の上記主張が減縮の場合を後者の場合に限定する趣旨であれば,その主張は前提において誤りであるといわざるを得ない。
また,特許請求の範囲の一部を減縮する場合に,当該部分とそれ以外の部分との整合性を担保するため,当該減縮部分以外の事項について字句の変更を行う必要性が生じる場合のあることは明らかであって,このような趣旨に基づく変更は,これにより特許請求の範囲を拡大ないし不明瞭にする等,補正の他の要件に抵触するものでない限り排除されるべきものではなく,この場合に当該補正部分の文言自体には減縮が存しなかったとしても,これが特許法旧17条の2第4項2号と矛盾するものではない。
・・・・
(3) 小括
以上によれば,本件補正を却下した審決の判断は誤りであり,被告は,本件補正後の特許請求の範囲を前提として,特許要件の有無を検討すべきである。
・・・・
【個人メモ】
限定的減縮に該当するか否かに関しては、実務ではかなり気を使うところである。
条文中のカッコ書きの立法趣旨は、そもそも特許庁の審査の手続きの容易化(早期化)の要請に基づくものであり、出願人側に有利に判断しても第三者に致命的な問題が生じるとは考えにくい(新規事項の追加がない限りは)。
条文のカッコ書きに関する裁判所の解釈に関しては疑問が残るが、「限定的減縮」が出願人側に有利に判断される方向に進むことは、基本的に歓迎したい。
【日記】
パナソニック電工杯・第63回毎日甲子園ボウルを見にゆく。結果は、立命館19-法政8。天候もそこまでは悪くならず、大変面白かったです。戦術とフォーメーションを臨機応変なものとすることは、様々な分野において必要であることを痛感する。例えば知財部の業務、特許事務所の業務などでも。
椿特許事務所
弁理士TY

Post Author: tsubakipat