「企業診断」(株式会社同友館発行)8月号を読んで
「企業診断」8月号に、「“知財”を活かす中小企業経営-士業連携によるコンサルティングの可能性」をタイトルとする特集が掲載されていた。そのうちの、弁護士の鮫島正洋先生の書かれた、「中小企業の知財経営と知財戦略コンサルティング」の論考は、会社経営において知財を重要視すべきである点や、どのように知財を保護・活用するかという点がわかりやすくまとめられており、成長してゆく中小企業の経営者、またそのような会社に助言すべき立場の人間にとって参考となるものと思う。
論考では、企業が複数の特許権(特許ポートフォリオ)を取得し、同業他社の参入障壁を形成することによって、先行投資者としての地位を確保し、マーケットからの利益を追求することが重要であるという観点、および、特許出願費用を単なるコストとせずに、将来のビジネスを守るための設備投資と意識することの重要性を柱として、それを実現するための策が述べれられている。また、知財戦略コンサルティングによる知財経営の導入プロセスとして、(1)現状の分析・把握、(2)事業・技術開発戦略の再検討、(3)知的財産戦略の策定、(4)知財マネジメントのためのシステム整備、からなる4つのステップが説明されている。
論考における、「事業・技術開発戦略は他社知財の存在によって変更を余儀なくされることがあるが、実際に投資をした後に他社知財のリスクに遭遇することを考えると、早い段階で変更する方がよい」という考え方は、納得するところがあった。
論考には記載されていなかったが、知財取得のメリットとして、取得した知財は、他社権利に対するカウンター(対抗策)としての効力や、他社への牽制としての効力をも発揮する。数値化できない経営資源として、知財の果たす役割は大きいと思う。
新規参入企業は、最初はとかく知財の権利行使を他社から受ける側に陥りがちである。そのなかでも成長する企業は、他社の権利を尊重する体制を確立させ、自社開発の技術の重要性を認識し、そのような技術の権利化を経て、他社へ権利行使をする側の立場に回っているように思う。追う立場、追われる立場が入れ替わるシーンに立ち会うことができたら、それは感慨深いのではないかと思う。
椿特許事務所
弁理士TY